TAM Music Factory
特別企画Vol.3 2002春



 
春告げる雪 作 環菜さん 

「なあ、小春ちゃん、そろそろ北に行かなくていいのかい?叱られるよ?」
「やだやだ〜!私、桜のおじさんの花吹雪を見るの、見たいの!」
「だが、お主がずっとここにいると、余りに寒くてわしも自慢の花を咲かせられんのじゃよ…」
「うう…やだやだ〜私の雪とどっちが綺麗か競争するの〜!」
「困ったのぉ…」
小春ちゃんはついこの間淡雪の精になったばかり。
この町が最初のお仕事なのですが、そこの公園の桜の精になつき、いついてしまっているのです。
「困ったのぉ…」
そこに、小春の先輩の北風の精が現れました。小春は慌てて桜のおじさんの背後に隠れます。
「おや、北風のお嬢さん」
「すみません、小春はまだこちらに…」
どうやら、未だに次の町にいかないのを心配してきたようです。
おじさんは事情を説明しました。
「花吹雪、ねぇ…そうだ、小春。だったら代わりにこれでどうかしら?」
北風のお姉さんはそっと腕を動かして、自分に属する風を呼びました。
遠い遠い北の空に降っていた雪がそっとこの小さな公園に訪れます。
早春の青い青い空の中を、真っ白い雪が舞っています。
まるで白い花びらのように…。
「綺麗…」
小春もいつのまにか桜の影から顔を覗かせました。
「小春、これは風花というのよ」
「お姉ちゃん、とっても綺麗…」
「桜吹雪もとても綺麗よ。そんなに見たいなら、ここでぐずぐずするよりも、早く仕事を終わらせて、ゆっくり見にきましょうよ?」
そういって、北風の精がそっと小春の手をとりました。
「桜ってそんなに綺麗なの?うん、そうだね、お姉ちゃん。
じゃ、桜のおじさん、またすぐ来るからね〜〜!」
小春はその身に雪を纏って勢い勇んで飛んでいきます。その姿を苦笑しながら見送る桜のおじさんに一礼し、北風のお姉さんも後を追っていきました。
「やれやれ…今年は気合をいれて一花咲かせんとなぁ」
桜のおじさんが見上げる空から、小春の雪はそっと降り注いでいました。

 早春の夕暮れの空からちらほらと白い雪が舞い降りてきました。
買い物帰りらしき親子…少年が天を見上げながらそっとその雪を掌に受けます。
「ちぇ、もう溶けちゃった。ねえ、お父さん。明日も、積もるかなぁ」
「多分無理だなぁ。こんな雪を淡雪って言うんだよ、春を告げる雪さ」

春はもう、すぐそこです…。


music by tam(2002.3.25公開)
曲はフリーMIDI素材です。ふつうイメージのページからダウンロードできます。

作者のコメント:企画に興味を惹かれたので初めて書いてみました。 ほかの皆様の作品がとても素晴らしいので、恥ずかしい限りなのですが 自分なりには暖かい感じに出来たかなって思ってます。 いろいろと協力してくださった皆様ありがとうございました。by 環菜さん 2002.4.12
曲を作るにあたって:元気な小春ちゃんと桜のおじさんとの会話がとても楽しく、暖かみを感じます。私たちが暖かな春を望んでいる反面、去りゆく冬にも曲中で目を向けるよう努力しました。シーンを思い浮かべながらBGMとして聴いて頂ければと思います。 by tam 2002.3.25
 

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