TAM Music Factory
特別企画Vol.3 2002春



 
アツィルトの森 作 hien+さん 

帝國紀暦2691年2月、もう雪は残っていないものの
まだまだ寒い時期である。そんな霞んだ空気の中、
午前4時の月明かりに照らされて、人影がアツィルトの森の高台に立っていた。
裾の長いスカートと、魔物の皮で作られた服をまとった少女だった。
ちょうど木々が途切れた崖の隅で彼女は、王都の街灯りに
眉をひそめた。銀色の髪が風に揺れ、ピアスは月明かりを十分に反射させていた。
先ほどから出てくる溜め息は白く、そしてすぐに風にかき消されてしまう。
混沌たる魔世界が広がりつづけていた神界創世時代。
システィアを含む4大陸から成るこの世界が誕生した時代である。
ラティウス海を望むこの王都アツィルトは、古くからユレムリア大陸との
貿易が盛んで、城下町として栄えてきた街だ。神界創世時代の旧跡も多く、
多くの研究者、観光客が訪れている。
王都の灯りがアツィルトの森の空を明るくしている。
そのことが、ティフェレト=エンゲルバードには気に食わなかった。
彼女はすぐに崖の下に視線を戻した。下には、今にも森を飲み込まんとする
闇が延々と続いている。
ティフェレトの視線は依然として崖の下の闇であるが、彼女の瞳には
幼い頃の想い出が映し出されている。
燃える大地に悲鳴を上げる木々。
轟音と爆風に突破された城壁。
高らかに鳴る銃声と男の声。
家族の無残な亡骸。
闘った兄・・・。
その想い出が映し終わったとき、彼女の瞳は熱くなっていた。
「・・・・・・・・・バカ。」
瞳に溜まっていた、月明かりに照らされた水晶は、彼女の白い頬を一筋滑っていった。


music by tam((2002.5.6公開)
曲はフリーMIDI素材です。その他イメージのページからダウンロードできます。

作者のコメント:「春」というイメージの企画でしたが、あえて初春を狙って描かせていただきました。壮大な物語をこの短い文章から感じられるように工夫したつもりですが・・・。みなさんに多夢さんの曲を通して雰囲気が伝わっていただければ幸いです。 by hien+さん 2002.5.15
曲を作るにあたって:「アツィルトの森」は春にこだわらず、言葉そしてCGで表現されている世界観をイメージして作成しました。 そして、ゲームのオープニング風にまとめました。 CGを見ながら、言葉を読みながら曲を聴いて頂ければ、 この世界を皆さんにも想像して頂けると思います。  by tam 2002.4.21
 

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